流体解析のあれこれ

流体解析をこよなく愛する有限体積法の信者によるブログ

連続の式と化学種の保存式の不一致

燃焼などの化学反応を伴う流れの計算では,連続の式と化学種の保存式の化学種に関する総和が一致しなければならない.化学種の保存式の非定常項と対流項の化学種の総和はそれぞれ連続の式における非定常項と対流項に帰着し,生成項すなわち化学種の正味の生成速度の総和はゼロとなる.しかしながら,フィックの法則を用いる場合,拡散係数の取り扱いによっては拡散項の総和はゼロにならず,これが連続の式と化学種の保存式の不一致の原因となり,解析精度や反復計算における収束性の悪化を招く.拡散係数が化学種によらず同じ場合には,化学種に関する総和がゼロになるため,拡散項の総和もゼロとなるのに対し,拡散係数が化学種によって異なる場合には,拡散係数の総和はゼロにはならない.なお,Reynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS)式の場合,拡散係数が化学種によって異なったとしても,乱流動粘性係数を乱流シュミット数で除すことで評価する乱流拡散係数が拡散係数と比較して十分に大きいため,この問題は生じない.一方,Large Eddy Simulation (LES)の場合,乱流拡散係数が拡散係数が同程度のオーダとなるため,この問題が生じる.本来,多成分系における拡散はFickの法則の拡張ではなく,Stefan-Maxwell (あるいはMaxwell-Stefan)式により記述すべきである.Stefan-Maxwell式については別の機会に紹介する.