流体解析のあれこれ

流体解析をこよなく愛する有限体積法の信者によるブログ

MAC系解法とSIMPLE系アルゴリズム(1)

非圧縮性流体を対象とした解析では,圧力の分離解法(いわゆるカップリングスキーム)としてMAC (Marker And Cell)系解法とSIMPLE (Semi-Implicit Method for Pressure-Linked Equations)系アルゴリズムのいずれかが用いられる.今回はMAC系解法とSIMPLE系アルゴリズムのいずれかを選ぶ基準について簡単にまとめる.

クーラン数と拡散数が十分に小さい場合,計算時間の観点からMAC系の解法のなかでもSMAC (Simplified MAC)が最も良いと思われる.SMACでは,Adams-bashforth法やRunge-Kutta法などの陽解法により定式化し,代数的に中間速度を求める.次に,圧力補正値のみ連立方程式を解くことで速度と圧力を求める.外部反復を必要としないことから,全体の計算時間が短くなる.一方,例えば,壁近傍のメッシュが細かく,拡散数が大きくなってしまう場合にはFractional Step法が良いと思われる.Fractional Step法では,運動量保存式中の粘性項のみ陰的に取り扱い,Crank-Nicolson法や完全陰解法などの陰解法により定式化し,連立方程式を解くことで中間速度を求める.次に,圧力補正値の連立方程式を解くことで速度と圧力を求める.中間速度の連立方程式を解く分,SMACよりも計算時間を要するものの,やはり外部反復を必要としないことから,全体の計算時間が短くなる.

一方,クーラン数も拡散数も大きい場合,あるいは時間刻み無限大の定常計算を行う場合,MAC系解法を用いることはできず,SIMPLE系アルゴリズムを用いる必要がある.ア例えば,SIMPLEでは,運動量保存式中の粘性項に加えて,対流項も陰的に取り扱う,陰解法により定式化し,連立方程式を解くことで中間速度を求める.次に,圧力補正値のみ連立方程式を解くことで速度と圧力を求める.ただし,運動量保存式中の非線形な対流項を陰的に取り扱うため,上記手順を反復する外部反復を必要とする.そのため,SIMPLE系アルゴリズムをクーラン数の小さい計算に適用すると外部反復膨大な計算時間を要することになり,不適切であるだけでなく,求めたい時刻まで計算を実施することが不可能になってしまう.