流体解析のあれこれ

流体解析をこよなく愛する有限体積法の信者によるブログ

有限体積法の学び方(1)

有限体積法に限らず新たな解析手法を習得するには膨大な時間を要する.このシリーズ「有限体積法の学び方」では,著者がこれまで紆余曲折しながら有限体積法を学んだ経験から限られた時間の中で効率良く有限体積法を学ぶ方法を紹介する.

ソースコードはついていないが,有限体積法のパイオニアの1人であるPatankarが執筆し,1980年に出版された「Numerical Heat Transfer and Fluid Flow」の訳本であり,1985年に出版された「コンピュータによる 熱移動と流れの数値解析」は良書であり,ご一読されることをお勧めする.

なお,目次は森北出版のウェブサイトに掲載されており,特に

  • 第3章「離散化の方法」で拡散項の離散化について
  • 第4章「熱伝導」で拡散項の離散化に加えて時間の進行法について
  • 第5章「対流と拡散」で拡散項に加えて対流項の離散化について
  • 第6章「流れ場の計算」で圧力の解法であるSIMPLEアルゴリズムについて

学ぶと良いと思われる.言うまでもなく30年以上前に出版された古い本であるが,逆に言えば30年以上販売されていることから,有限体積法のベストセラーの1つであることに間違いはない.なお,英語が得意な方やこの分野の英語を学びたい方には原著を読むこともお勧めする. 

Flamelet-Generated Manifolds (FGM)法

Flamelet-Generated Manifolds (FGM)法はvan Oijen and de Goey (2000)が提案するFlamelet approachの一種であり,間接的ではあるものの詳細化学反応機構を考慮可能な燃焼モデルの1つである.当初は,詳細化学反応機構を用いて種々の熱損失下において一次元の予混合火炎の計算を実施し,エンタルピーと反応進行変数として酸素の質量分率をControlling Variable (CV) (Flamelet/Progress-Variable (FPV)法におけるProgress Variableに相当)として,混合ガスの温度,化学種の濃度,物性値とCVの正味の生成速度などの数値解をFlamelet tableと呼ばれるデータベースに保存する.この際,距離に対する数値解をCVに対する数値解に変換し,エンタルピーとCVをパラメータとするデータベースとする.目的の燃焼シミュレーションでは,流れの計算に加えてエンタルピーとCVの正味の生成速度を生成項に持つCVの保存式を解き,各計算格子において求めたエンタルピーとCVをパラメータとしてFlamelet tableを参照することで,混合ガスの温度,化学種の濃度,物性値とCVの正味の生成速度などの変数を決定する.なお,流れの計算に反映されるのは,混合ガスの物性値とCVの正味の生成速度である.そのため,化学反応速度を生成項に持つ化学種の保存式を解く必要なく,間接的ではあるものの詳細化学反応機構を考慮した燃焼シミュレーションを実施することが可能である.

Kasagi and Matsunaga (1995)のバックステップ流れを対象とした乱流流れの実験

Kasagi and Matsunaga (1995)はバックステップ流れを対象とした乱流流れの詳細な実験データ(fc_bs007, fc_bs007b)を提供している.このバックステップ流れを対象として,多くの研究者がReynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS)やLarge Eddy Simulation (LES)を実施している.乱流流れの解析手法や乱流モデルの検証に重宝すると思われる.なお,スパン方向には十分な距離があるため,RANSでは二次元流れを仮定することができ,LESではスパン方向に周期境界を適用することができる.

1) Kasagi, N. and Matsunaga, A., Three-dimensional particle-tracking velocimetry measurement of turbulence statistics and energy budget in a backward-facing step flow, International Journal of Heat and Fluid Flow, 16(6), 477-489 (1995)

Ghia et al. (1982)のキャビティ流れ

流体解析に限らず,in-houseの計算コードを開発する上で,計算コードの妥当性の検証は必要不可欠である.検証問題としては,

  • 実験における測定値
  • 解析(厳密)解
  • 数値解

が考えられ,測定値は主に「正しい基礎式を解いているか」を検証するため,解析解と数値解は「基礎式を正しく解いているか」を検証するために用いられる.今回紹介する検証問題である「Ghia et al. (1982)のキャビティ流れ」は後者に該当し,上部壁のみ移動壁,その他すべての壁を固定壁とする正方形内に生じる二次元の流れ場を対象としている.種々のレイノルズ数において,流れ関数-渦度法を用いて求めた定常状態における流れ場として,各軸に平行な中心線上における各方向の速度成分が提供されている.この検証問題では,主に対流項の離散化スキームの精度について議論されることが多いように思われる.

1) Ghia, U. et al., High-Re solutions for incompressible flow using the Navier-Stokes equations and a multigrid method, 48(3), 387-411 (1982)

渦消散モデル

以前,乱流流れにおける化学反応速度について述べたが,乱流燃焼モデルの1つに渦消散モデル(Eddy Dissipation Concept (EDC))がある.EDCでは,化学反応速度は無限大に大きいと仮定し,乱流場における燃料と酸化剤の混合によって決定されるとする.そのため,燃料の種類によらず用いることができ,Reynolds-Averaged Navier-Stokes (RANS)とともに広く用いられている.近年では,Large Eddy Simulation (LES)で用いられている.このEDCの文献についてはThe Eddy Dissipation Concept for turbulent combustion (EDC)にまとめられている.

MAC系解法とSIMPLE系アルゴリズム(2)

以前,MAC系解法とSIMPLE系アルゴリズムについて特にその選択方法について解説した.CAE懇話会の中部地区「流体伝熱基礎講座」の第4回の流体数値計算法の資料「流体数値計算法」と「流体計算の時間進行法と計算アルゴリズム」にMAC系解法とSIMPLE系アルゴリズムについて体系的にまとめられているため,ここで紹介しておく.

有限体積においてスタッガード格子を用いる場合の運動量の保存性

有限体積法において,コロケート格子では,速度成分を含むあらゆる物理量をセル中心に定義するのに対し,スタッガード格子では,速度成分以外の物理量をセル中心に,速度成分をセル界面にそれぞれ定義する.コロケート格子では,Rhie-Chowの補間を用いない限り,圧力勾配が適切に速度成分に作用しないてめ,チェッカーボード圧力場と呼ばれる非現実的な市松模様の圧力場が生じる.一方,スタッガード格子では,圧力勾配が直接速度成分に作用するため,非現実的な圧力場が生じることはない.MAC系解法やSIMPLE系アルゴリズムによって,スカラーセル界面において厳密に連続の式が満たされる.そのため,速度成分以外の物理量に関しては高い保存性が期待できる.一方,各モーメンタムセル界面では厳密に連続の式が満たされない.これはモーメンタムセル界面の流束が補間によって求められるためである.加えて,境界条件として規定されるスカラーセル界面の流束を直接参照していないためである.以上より,スタッガード格子における運動量の保存性については期待できないと考える.